ニュートリノの性質の研究や陽子崩壊の探索を通じて、素粒子物理の将来を切り拓く新たな発見を目指しています。また、そのような研究を進めるために必要となるより良い測定装置や実験計画の開発、提案をおこなっています。
ニュートリノの性質の研究
ニュートリノは、物質を形作る素粒子の中で「レプトン」と呼ばれる、電子の仲間です。ただし、電子が負の電荷を帯びているのに対し、ニュートリノは電気的に中性です。このため、ニュートリノは他の物質との反応(相互作用)を極端に起こしにくく、あらゆる物質をほとんどすり抜けてしまいます。
電子には、質量以外は同じ性質を持つミュー粒子、タウ粒子という仲間がいます。それに対応して、ニュートリノにも電子型、ミュー型、タウ型という3種類が存在することが知られています。ニュートリノはどれも質量がとても小さく、もし質量がゼロでなかったとしても電子の20万分の1より小さいということが実験でわかっていました。素粒子を記述する「標準模型」においては、ニュートリノの質量はゼロであるとされていました。
ニュートリノ振動
ニュートリノが飛んでいく間に自然とその種類を変える「ニュートリノ振動」と呼ばれる現象が起きていることが、1998年に日本のスーパーカミオカンデによる研究で確かめられました。ニュートリノ振動は、ニュートリノの質量がゼロだと起こりません。ニュートリノ振動の発見は、ニュートリノが非常に小さいけれどゼロではない質量を持つ、ということを実験的に確定させ、新たな研究の方向性を開く大きな成果でした。この成果により、2015年には梶田隆章 東京大学卓越教授がノーベル物理学賞を授与されました。
ニュートリノ振動で、どういうエネルギーのニュートリノが どのくらい飛べば どういう割合で種類が変化するか、を調べることによって、違う種類のニュートリノの質量の差や、ニュートリノの種類の間の関係(混合角と呼ばれるパラメータ)を知ることができます。こうして、ニュートリノ振動が発見されたことで、その現象の詳細な測定を通じてニュートリノの性質をよりよく知るという、新しい研究分野が生まれ、今では素粒子物理学の主要なトピックの一つとなっています。その中で、30年近くに渡り世界の研究をリードしてきたのが、日本のスーパーカミオカンデを使った実験です。
長基線ニュートリノ振動実験、T2K
加速器と呼ばれる巨大な装置を利用して、ニュートリノのビームを人工的に作り出すことができます。また、装置の設定を変えることで、ニュートリノの反粒子である反ニュートリノのビームを作ることもできます。茨城県東海村にあるJ-PARC大強度陽子加速器施設から、295km離れたスーパーカミオカンデにニュートリのビームを打ち込み、その間で起こるニュートリノ振動を観測するT2K (Tokai-to–Kamioka)実験で、ニュートリノ振動の研究を行っています。
T2K実験を始めた時には、ミューオン型から電子型にニュートリノの種類が変化する「電子ニュートリノ出現」が未観測であり、その観測が最初の大きな目標でした。開始から数年で電子ニュートリノ出現を発見し、現在はその次のステップとして、ニュートリノビームと反ニュートリノビームで「電子ニュートリの出現」の確率を測定・比較し、粒子と反粒子の性質の違い(CP対称性の破れ)の探索を行っています。CP対称性の破れは、宇宙の初期に同じ数だけ作られたはずの粒子と反粒子(物質と反物質)のうち、なぜ粒子だけが現在の宇宙に残っているのか、という謎を解く鍵になると考えられています。
陽子崩壊の探索
大統一理論と陽子崩壊
陽子崩壊の探索
ハイパーカミオカンデの建設